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もともとは蟷螂だった

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もともとは蟷螂だったのだ。



大恋愛の末結ばれた蟷螂のマチコとリリオだったが、
実は、リリオの本命は村外れのクリーニング店主、
マチコの本命は、リリオの師匠の住職だったのだ。。。

アーケード街のガラス越しに、
今日もアイロンをかける、愛しい人。゜。゜

落ち葉が降り注ぐ境内、
賽銭箱越しに揺れる袈裟と、木魚の響き+。゜

その時、
フランス人留学生の牛乳配達係の青年が、
偶然を装って通りかかるのだ。

そう。二人に必要なのは・・・・・

   カ ル シ ウ ム

これからは、【そういう時代】なのだ。

リリオはそう観念したが
マチコは煩悩を断ち切れず、

これは・・・間違いなく、ピカレスクロマン★の、
幕開けなのだ・・・

○●○

クリーニング店。
店主のミチコは、早朝から店先に
[年内Yシャツ50%OFF]と書かれた幟を出し、
レジの前で、今日受け取りに来る顧客リストを点検していた。

わたしはこの店の駅長さん♪
綺麗に洗濯されたドレスを滞りなく、
持ち主の元へお渡しするのが、わたしのミッションなのだ+。゜

「発車、オーライ!!」

溌剌とした声でレジに向かって敬礼し、
今日も仕事に取り掛かるミチコだった。


一方、
ガラス越しで、リリオは溢れる涙を堪えきれず、
足早に、駅へと向かった。

( 運命は俺になんてことをしやがるんだ..... )

リリオの耳の奥では、ミチコの 「発車オーライ!」 の声が、
いつまでも響いているのだった。

○●○

住職は、蟷螂ではなかった。

マチコは今日も投函する当てのない手紙を一人、
したためるのだった。

*******************
住職様

わたしは何故。。。
蟷螂になど、生まれてしまったのでしょうか?

もしも人間にさえ生まれていたならば、
今頃は・・・住職様のお傍で熱いお茶を淹れ、
美味しいお饅頭をお出しして差し上げられたかも
しれないものを.....全ては叶わぬ夢なのですね。

今日も賽銭箱の片隅で、
容赦なく降ってくる小銭の嵐を右に、左に、器用に避けながら、
住職様のお姿を、遠くから拝見しておりました+。゜

もしも、この声が届くのなら・・・・・

*******************

・・・マチコは筆を置き、
手紙を丸めて、暖炉にくべた。
届かぬ手紙が、メラメラと炎に包まれる光景を眺めながら
今日もマチコは、両手の鎌を呪うのだった。

○●○

住職は朝の勤行を終えると
そっと木魚の叩き語りを始めるのだった。

。。。 歪んじまった 哀しみに 

♪ポク ♪ポク ♪ポク ♪ポク
  ♪ポク ♪ポク ♪ポク ♪ポク

マチコも一緒に木の枝を拾い、賽銭箱を奏で始めた。

♪チュラッ チュチュ  ♪チュラッ チュチュ
   ♪チュラッ チュチュ   ♪チュラッ チュチュ


ポク ポク ポク ポク


チュラッ チュチュ
   チュラッ チュチュ

○●○

その時、
本堂の奥で、一体の人形が
長い眠りから目醒めようとしていた。

♪ポク ♪ポク ♪ポク ♪ポク
 ♪チュラッ チュチュ ♪チュラッ ♪チュチュ

・・・ 此処は、どこ?

襖を探すも、暗くてよく見えないのだ。

ぎこちない足取りのまま、
人形は蝋燭を探そうと、フラフラと立ち上がった。

 ♪チュラッ チュチュ ♪チュラッ ♪チュチュ

渾身の力をこめて重い襖を開くと、
木の枝を握り締めたマチコと目が合った。

( アナタハ ダアレ? )
( ワタシハ ヒナギク。 ズットココデ ネムッテイタノ。
  アナタハ ダアレ?)
( ワタシハ マチコ。 トナリムラノ カマキリナノ。 )
( ウフフ )
( エヘヘ )

♪ポク ♪ポク ♪ポク ♪ポク

○●○

ミチコは最後の客に、丁寧にプレスとラッピングを施したコートを手渡すと、カウンター越しに笑顔で見送り、「ふー」と、大きく息を吐いた後、店の外に出してあった[年内Yシャツ50%OFF]の幟を、店内に仕舞った。

ミチコの最近の懸念は・・・
最近、この村にまで店舗を拡大して来つつある
『ブルガリアクリーニングの店 サチコ』の存在であった。

店主のサチコは、ブルガリアで10年間、クリーニングの秘儀を修行したという。ヨーグルトを使うのが白さの秘訣らしいのだが、詳細は企業秘密として、厳重に守られているらしい。

。。。ブルガリアか。

病弱な両親はミチコが幼い頃に相次いで他界し、夫の女癖のわるさとギャンブル狂に悩んだ末離別した後、女手一つで小さなこの店を切り盛りしてきたミチコにとって、海外での修行などは、夢の又、夢だった。

しかしミチコには・・・誰にも負けない、「ガッツ」があった。

 ブルガリアクリーニングなどに・・・
 負 け て な る も の で す か +。゜

ミチコは、沈む太陽をじっと見つめながら・・・
不敵な微笑みで、ガッツポーズを繰り返すのだった。

・・・[第一部完結]・・・< 第二部へつづく >


・・・[第二部]・・・

終わらない円盤。

もともとは蟷螂だったリリオと人形だったヒナギクは、
遠い夢の国へ行ってみることにした。

-
大奥。
陰陽師だったリリオと、
かつては一番の寵姫だったが今は引退し、
側室達への恋愛アドバイザーや、
城内行事を運営する班長として暮らしていた、ヒナギク。

ある日二人は、城で開かれた餅つき大会で出会った。

しかしリリオは既に五人囃子の紅一点を妻に持ち、
殿からも絶大な信頼を寄せられている身、
密通などしようものなら市中引き回しの上、
石打ちの刑が待っていることだろう.....。。。

しかしリリオは、己の心を偽ることなど出来なかったのだ。

ヒナギクの米蔵当番の日、俵の裏で待っていたリリオは一通の手紙をそっとヒナギクに手渡した。
同じ気持ちを抱いていたヒナギクは・・・天にも昇る心地と共に、激しく苦悩した。

(今では殿の愛を失ったわたしとて、今は班長として・・・そして、城の恋愛アドバイザーを勤める身。
それが陰陽師様と道ならぬ恋に落ちてしまうとは、なんという運命の悪戯なのでしょう...。
この真実を城の住人が知ろうものなら、わたしのみならず・・・
陰陽師様は、どうなってしまわれるのでしょう。。)



そんなヒナギクとリリオが幾度も眠れぬ夜を過ごしていたある日、
リリオはお茶会当番だったヒナギクと、庭園の脇で出会ってしまう。

恥ずかしさのあまり逃げ出してしまったヒナギクを、リリオは追うことも許されず。。。

他の側室達や五人囃子のメンバーが目を光らせていたのもさること、
リリオもまた、この道ならぬ恋に苦悩していたのだった。゜

○●○

深海。

リリオは巻貝で、マチコはフジツボ、住職は珊瑚礁で、ヒナギクは海水だった。
ミチコやサチコは有機物ですらなく、フランス人留学生はオゾン層の外側に居た。

それぞれがどこでどう蟷螂になり、人形となり、住職となり、クリーニング屋になり、留学生となったのか、その道中の隅から隅までを知り尽くす者は居るといえば居るし、居ないといえば居ないのだろう。そしてその各々がアジアンコードのように絡み合って結び合って、最期は玉結びで終わるのだろうか。その隅々まで見届ける者が居るのかどうかも又、時間と紙一重なのだろう。

○●○

ヒナギクは歩くことを思い出していた。
襖の暖かさ、木々の香り、畳の目のひとつひとつの触感を、足の裏で確かめながら歩いた。
すっかり仲良しになったマチコと一緒に、蓄音機に耳を傾けるのも、楽しみのひとつだった。

餅つき大会の記憶も、城の中の記憶も、そして・・・今ではリリオの面影も、思い出そうとすればそれは可能だろうが、彼が今何を想い、何処へ行こうとしているのか、ヒナギクの中で像を結ぶにはあまりに遠い場所に居ることだけは、わかっていた。

そして今、目の前で両手の鎌を使い、器用に蓄音機の上に円盤を乗せ続けるマチコの姿を見て、そのとても幸せそうで、生き生きとした、マチコの姿を通して・・・リリオもまた、大きな意味での幸せという風呂敷の中に居るであろうことに、安堵した。それだけを確かめるために、甦ったのではなかろうが・・・ずっと喉の奥で引っかかっていたものがふいに腑に落ちたような、大きな満足感に浸っていた。

マチコはふと、鎌を止め・・・ヒナギクの、ガラスのような瞳を見つめた。

(なんて綺麗な色なんでしょう・・・+。゜)

それはどこまでも奥へと繋がる小路の色。
琥珀色を煮詰めて結晶にした、不思議な色をしていた。
その目はいつも、此処ではないどこかを見ているようでいて・・・それでいて、確かにその命は常に、自分のすぐ隣に居てくれるという実感がある。

こういう目と出会うのはこれが始めてではなかった。
しかしマチコはその度に感動を覚えるよりかは、自分が蟷螂であることへの悔しさが先に立ってしまい、素直になれずにいたのだ。。

マチコは何故、自分が蟷螂に生まれたのかは、知る由もない。
そしてヒナギクが何故人形となり、本堂の奥で甦り、今・・・自分と一緒に蓄音機を聴いているのか?思えば不思議な話だったが、巡り合わせというものはいつも、そういうものなのだろう。

そして何よりも、マチコは今・・・住職への辛い片思いよりも、ヒナギクと一緒に円盤を聴いている時間が、何より楽しいことに気付いた。

今はそれだけで充分だった。
by o-bleneri | 2005-11-17 00:43 | 創作


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